「絶滅危惧種」と聞くと、めったに出会えない希少な生き物を思い浮かべます。ところが北海道での調査は、その直感を静かに裏返しました。
北海道新幹線をつくるための環境アセスメント——工事が自然に与える影響を事前に調べる手続き——で集まった膨大な記録を、研究者が別の目で解析し直しました。すると約200km・747地点の9割超で、絶滅危惧とされるニホンザリガニが見つかったのです。つまりこの生き物は「もともと珍しい」のではなく、川の改修や森林の開発、外来のザリガニの侵入などによって「珍しくされてしまった」可能性が高い。
ここで効く読み方が二つあります。ひとつはデータの使い道。開発のために集めた記録が、目的を変えれば保全の科学にとって宝になる——データは「何のために測ったか」に縛られず、二次利用で別の問いに答えられます。もうひとつは基準の置き方です。「今どれだけいるか」だけを見ると、減った後の少ない状態をつい"普通"と思い込みます。本来の姿を知って初めて、どれだけ失われたかが分かる——過去を手がかりに現在を測り直すのは、科学の見方の要でもあります。
そして生き物の分布は、生態系というつながりの一部です。ニホンザリガニが幅数十cm・水深わずかな源流の細流に集中していたことは、その特定の環境が失われれば一気に姿を消しうることも意味します。
持ち帰れる一問はこれです。「それは昔から珍しかったのか、それとも珍しくされたのか」。絶滅危惧種でも、地方の過疎でも、失われた手仕事でも、"今の少なさ"を当たり前の基準にしないこと。過去の基準を思い出すと、変化の本当の大きさが見えてきます。