物価の話には、実際の値段のほかに、もう一人の主役がいます。「これから上がりそうだ」という人々の予想です。日銀の生活意識アンケートで、1年後に物価が上がると見る人が90.4%に達し、過去最高になりました。前回3月の83.7%から一気に増えています。
なぜ中央銀行が"予想"をわざわざ調べるのか。予想が行動を変えるからです。値上がりを見込めば、高くなる前に買っておこう、来年の賃上げを強く求めよう、と人は動く。その一つひとつの行動がめぐりめぐって、本当に物価を押し上げていく——予想が現実を作る、という少し不思議な回路です。だから金融政策の世界では、いまの物価そのものだけでなく、「予想の温度」を熱すぎず冷たすぎず保つことが中心的な仕事になります。
もう一つ、数字の読み方も持ち帰れます。「9割」「過去最高」は強い言葉ですが、世論調査と同じで、いつ・何を・どう聞いたかで揺れます。今回は原油高が続いた局面での回答で、先々の見通しは状況しだいで動きます。しかも同じ調査で「1年後の景気は悪くなる」が約5割に増えました。物価は上がると覚悟しつつ、暮らし向きには不安——このねじれこそ、平均値一つでは見えない実感です。
持ち帰れる読み方はこうです。物価のニュースを見たら、「実際の数字」と「人々の予想」を分けて読む。そして予想は、ときに自分で自分を実現させる。だから9割という数字は、未来の予報であると同時に、未来を作る力そのものでもあるのです。