「賃上げ」の額面にだまされない
春闘、最低賃金の改定、大企業の賃上げ表明——賃金のニュースは絶えません。しかし「賃金が上がった」という見出しを正しく読むには、インフレの回で学んだ名目と実質の区別が欠かせません。
名目賃金は額面の金額、実質賃金は物価を差し引いた「実際に買えるモノの量」です。賃金が3%上がっても、物価が4%上がっていれば、実質では目減りしています。ニュースの「◯%賃上げ」はたいてい名目の話。同じ期間の物価上昇率とセットで見て初めて、暮らしが楽になったのかが分かります。実際、実質賃金の増減はニュースでも繰り返し焦点になります。
なぜ賃金は上がりにくいのか
前レッスンまでの労働市場の特殊性が、賃金の上がりにくさを生みます。
- 下方硬直性の裏返し:賃金は下げにくいぶん、企業は上げるのにも慎重になる。一度上げた賃金は下げられないので、「本当に続くのか」を見極めてからしか上げない
- 価格転嫁への慎重さ:賃上げの原資を確保するには商品の値上げが要るが、値上げで客が離れるのを恐れて踏み切れない。デフレが長い経済ではこの心理が根強い
- 雇用を守る優先:日本では特に、賃下げより雇用維持を優先する慣行が、平時の賃上げ抑制につながってきた
賃金を支える土台=生産性
短期の駆け引きを超えて、長期的に賃金を上げる土台は労働生産性です。生産性とは一人あたりが生み出す価値のこと。配れるパイそのものが大きくならなければ、賃金の持続的な上昇は続きません。技術、教育、設備投資、より価値の高い産業への移動——生産性を高める営みが、めぐりめぐって賃金の源になります。「成長と分配」の議論とも直結するテーマです。
次の最終レッスンでは、こうした土台の上で変わりつつある働き方そのものを見ます。