「タバコのニコチンは害虫よけの毒」——これはよく知られた話です。ところが今回の研究は、その毒が土の中で、まったく別の仕事もしていたことを見せてくれます。
舞台は、根のまわりのごく狭い土の層(根圏)。ここには無数の微生物が暮らし、植物と養分をやり取りしています。生き物どうしを敵味方ではなく物質のやり取りの網として見る——これが生態系の見方です。研究チームが見つけたのは、その網の中で、ニコチンを分解して栄養にできる細菌(アルスロバクター)が優位に立っている、という関係でした。昆虫には猛毒のニコチンが、この細菌には独り占めできるごちそうになっていたのです。毒か資源かは、物質そのものではなく、向き合う相手で変わる。植物は毒で虫を防ぐと同時に、その毒を食べられる微生物を選び、根圏の顔ぶれをいわば編集していた、とも言えます。
もう一つ面白いのは、この細菌がニコチンを分解する力を「遺伝子の水平伝播」——別の細菌から遺伝子を受け取ること——で手に入れていた点です。使える能力を持った者が結果として増えていく。これはまさに進化のはたらきで、土の中の勢力図が固定ではなく、更新され続けていることを示します。
持ち帰れる読み方はこうです。生き物のニュースで「毒」「有害物質」と出てきたら、「誰にとって・どんな条件で」を一言おぎなってみてください。毒性は絶対の属性ではなく関係で決まり、その関係もまた進化で移ろっていく。自然界を「良い/悪い」で切り分ける前に、物質がぐるりと巡る網として眺めると、思いがけない役割が見えてきます。