「最低賃金が55円上がって1176円に」と聞くと、目は上げ幅の数字に吸い寄せられます。でも最低賃金は、労働市場の値段を法律で下から支えるしくみ。だから読みどころは「いくら上げたか」だけでなく、「どんな副作用と引き換えに、どこを厚く上げたか」にあります。
まず、なぜ毎年これほど議論が割れるのか。賃金を下から押し上げれば働く人の手取りは増えますが、雇う側にとっては人を雇うコストが上がります。賃金がそもそも上がりにくいなかで無理に押し上げれば、企業によっては採用を絞ったり、機械やセルフレジへの置き換えを急いだりする——賃上げには、こうした雇用への裏側がついて回ります。今年、上げ幅が前年の63円から55円へ縮んだのも、物価上昇が一服したという理由に加え、この綱引きの結果です。
もう一つの読みどころが「配り方」です。今年の目安は都市部のAランクが54円、地方を含むB・Cランクが56円。あえて地方を厚くして、都市との賃金差を縮めにいきました。同じ「55円」でも、全国に一律ではなく、水準の低いところを速く底上げする設計になっているわけです。
持ち帰れる読み方はこうです。最低賃金のニュースを見たら、「上げ幅の数字」「引き換えに生じる雇用への影響」「どの地域を厚くしたか」の三つを一緒に見てください。賃上げは働く人にとっての朗報であると同時に、雇う・雇われるのバランスと、地域ごとの配分をめぐる調整でもある。数字の大小の奥に、その年ごとの「どう配るか」の判断が隠れています。