白金は、指輪にも使われるほど高価な貴金属です。水素と酸素から電気をつくる燃料電池は、その白金を触媒として頼っています。だから燃料電池には昔から、悩ましい板挟みがありました。
触媒の白金は、粒を小さくするほど反応する表面が増えてよく働きます。ところが小さな粒は運転中に溶け合って大きくなり、性能が落ちてしまう。活性(よく効く)と耐久(長持ち)は、ふつう一方を立てれば他方が倒れる関係だったのです。ワシントン大学セントルイス校のチームは、この二者択一を触媒そのものではなく“入れ物”で解きました。放射状に細い穴が走る中空の炭素球をつくり、その穴に白金コバルトの粒を閉じ込める。すると1000℃まで熱して規則正しい構造に整えても、粒は5ナノメートル以下のまま散らばって固定される。結果、15万回の過酷な電圧サイクル(およそ2.5万時間の運転に相当)を経ても性能の85%を保ちました(Nature Nanotechnology、8月6日)。
意味はこうです。燃料電池は脱炭素の電源の一つとして期待されますが、高価で産地の偏る白金への依存がコストの壁でした。白金をコバルトと組ませて量を減らし、しかも長持ちさせられれば、電力を食うデータセンターや車の動力として現実味が増します。
持ち帰れる見方はこうです。「性能か耐久か」のように見える板挟みは、当事者(ここでは白金の粒)そのものより、それを支える“構造”を変えると両立できることがある。トレードオフは動かせない前提ではなく、設計で押し広げられる余地だ——技術のニュースを読むとき、まず「何と何の板挟みを、どこで解いたのか」を探すと芯が見えます。