小惑星探査機はやぶさ2が、「トリフネ」と名づけられた小惑星のすぐそばを、秒速約5キロメートルで駆け抜けた。ぶつかる心配のない相手だ。では、なぜわざわざ危ういほど近くまで寄ったのか。答えは、遠い未来の「もしも」に備えるためだ。
小惑星が地球に衝突する確率は、ふだんはごく小さい。だが、もし大きな一つが向かってくれば被害は計り知れない。この「確率は低いが、起きれば甚大」というリスクへの向き合い方が、今回の核心にある。実際にはぶつからない小惑星で、探査機を狙った一点へ正確に導く技術を試しておく——将来ほんとうに軌道をずらす必要が出たときの、予行演習である。うまくいったかどうかは、搭載機器が集めた観測データを科学的な手続きで一つずつ検証して確かめていく。
もう一つ面白いのが、機体が自分で判断して飛んだことだ。地球と探査機のあいだは通信に時間がかかり、遠方では片道だけで何分もの遅れが出る。地上から「今だ」と指示していては間に合わない。そこで最接近の局面では、機体がカメラで小惑星をとらえ、自ら軌道を計算して進んだ。宇宙開発が、人の手を離れて自律していく一場面だ。
持ち帰れる読み方はこうだ。「めったに起きない」と「無視してよい」は違う。確率の低さだけを見て切り捨てず、起きたときの被害の大きさとかけ合わせて考える。まれな脅威のニュースに出会ったら、この二つを分けて眺めてみてください。